3-16:果実の持つ実

メロウ・ハートの廃都市と果実のマイケル メロウ・ハートの廃都市と果実のマイケル

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 果実のマイケルは、肩掛けカバンの口を開いて何かの実を取り出した。

「それってシチューに入ってた実?」

 茶色いマイケルが身を乗り出すようにして訊くと、「そぉそぉ」と言いながら立ち上がり、カラバさんにその実を渡す。小ぶりなマンゴーくらいの大きさで、月のある明るい夜空みたいな色をしていて、とってもキレイだったよ。シチューに入っていたのは熟れたオレンジ色だったから、皮を剥いていたのかな。

 両手で丁寧に受け取るカラバさんは、少し掲げて眺めるだけで、今度は鑑定用のルーペを使わなかった。

「今持ってるのは5つかなぁ。足りるぅ? 増やすぅ?」

「いいえ十分でございます。おつりをどう渡そうか悩んでしまうくらいに」

 実から目を離したカラバさんは、茶色いマイケルたちの表情を見たのか、果実のマイケルに「私からお話いたしましょうか?」と尋ねたよ。

「いいよぉ。実の説明なんていらないって言われたしねぇ」

 目を向けられたのは灼熱のマイケル。そういえばシチューを食べるときにそんなこと言ってたかも! 果実のマイケルがイジワルな笑い方してる!

「ふん。説明などいらん。全員で行けるということが分かればそれでいい」

「ちぇ~、意地張っちゃってさぁ」

 ホントはさ、何ていう実でどうしてそんなに価値があるのかを、茶色いマイケルは知りたかったんだけどね。でも、それより何より、みんな揃って大空の国へ行けるっていう喜びが、頭の中いっぱいに広がってたんだ。

「すごいや果実! その実で行けるって分かってたの?」

「まぁねぇ。大空の国に行くのが目的だったから、一応準備はしてきたよぉ」

「そう言えば、この店が大空の国と繋がっているというのも予想していたな。あれはどういうわけだったのだ? 完全に知っているというふうではなかったが」

「んぁ? ああ、簡単だよぉ。こんな流通の途切れた都市で交換屋が成り立っている時点でおかしいじゃないかぁ。仕入なんてできるはずがないしね。どこかに秘密のつながりでも持ってないと、理屈に合わないよぉ」

 なるほどな、と納得する灼熱のマイケル。茶色いマイケルとピッケは「すごいなぁ」って言いながら拍手をしたよ。そんなことちっとも考えなかったんだからさ。

「ま、この実にどれくらい価値があるのかは、分からなかったんだけどねぇ」

 と照れ隠しを言う果実のマイケル。いよいよだね!

「よし! それじゃあまずはみんなで大空の国を冒険だー!」

 茶色いマイケルが盛り上がった気持ちを言葉としっぽに乗せると、

「おー!」と元気の良いピッケ。

「オイラに感謝してよねぇ、あふふ」と胸を張る果実のマイケル。

 灼熱のマイケルは2つの拳を打ちつけながら「腕が鳴る」と張り切ったよ。何しに行くのかな?

 だけど。

 何もかもがうまく行っている時って注意が必要みたいだ。

 まるで心の中が喜びで満たされたタイミングを見計らったように、

「残念ながらそれはできません」

 とカラバさんが抑揚のない声で言う。え、と場が凍り付いた。みんなカラバさんの次の言葉を待っていたんだと思うよ。「冗談です」って茶目っ気たっぷりに笑ってくれるのをね。

「大空の国に行けるのは、果実のマイケルさんと灼熱のマイケルさん、それから茶色いマイケルさんに限らせていただきます。ピッケさんを『空と大地のつなぎ目の部屋』より先に通すわけにはまいりません」

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