3-6:置き引きネコを追え!

***

「ま、まてっ!」

 子ネコは観客席を登りきっていた。ボロ服がひらりと揺れて2匹のマイケルを盗み見る。

「下だ、下に降りてった!」

「わかっとる! ワシは上から見張るから茶色はヤツを追え! 地下に逃げるかもしれん」

 ぴょんと階段を飛び下りたけど「場外に逃げた」という声はない。地下へのスロープを駆けていくと、その先には長い廊下があった。リコーダーに空いた穴のように、廊下の壁に沿っていくつもの、アーチ状のわき道が並んでいる。

「いた!」

 奥、カーブの先でしっぽがちらりと揺れたのを見逃がさなかった。四つ足になって地面を蹴るとジャリッと小石の音がする。背中はすぐにとらえた。

 だけどなかなか捕まえきれない。この場所のせいかな。

 あっちこっちの通路が繋がっていて、しっぽに手を伸ばしてつかもうとした瞬間にクイッ、と別の通路に入って切り返されちゃうんだ。同じ子ネコでも茶色いマイケルのほうが体が大きいからさ、ちょこまかと動き回られると一瞬遅れちゃうんだよね。

 でも待って。茶色いマイケルはふと、おかしいなって思ったんだ。自分よりも足の速いネコはいると思う。だけどさ、スーツケースを持ったままの子ネコに、いいように逃げ回られるなんて。

 そう思って見てみると答えは単純明快だった。

「持ってない!」

 ピン、とヒゲを伸ばした茶色いマイケルは、追いつくのをわざと遅らせて、子ネコが右へ曲がる瞬間に、その一つ手前の通路に回り込む。くるっと折り返そうとした子ネコはびっくりさ。茶色いマイケルが目の前にいたんだからね。

 ボロ切れの向こうからギロリと睨みつけられたのがわかった。だけど構わずネコダッシュで飛び出した!

 わわっ、と子ネコが迷った一瞬の隙をついて、腰のあたりにネコタックル! 一歩二歩と苦し紛れに子ネコはもがいたけど、最後はどしゃんと地面に倒れ込んじゃった。

「もう逃げちゃだめだよ! 荷物はどこ……あった!」

 茶色いマイケルは子ネコを押さえつけたまま辺りを見渡して、柱の陰にスーツケースが立て掛けられているのを見つけた。

 どうしてすぐに見つけられたのかって? 足跡さ。

 ジャリジャリの小石の上にくっきりついた足跡。そこに気づけば誰にだって見つけられる。あちこち逃げ回っているように見えた子ねこだけど、実は、最初に通った柱の陰から離れすぎないように走っていたのさ。茶色いマイケルを出し抜いたらすぐ、取りに戻ってこられるようにね。

 すごい? へへへ、鬼ごっこは大好きだから!

「茶色ー!」

 まだかなり遠くだったけど、灼熱のマイケルの声が聞こえた。茶色いマイケルは「みゃぁあ!」と鳴き声で知らせる。

 捕まえた子ネコの着ていたボロ切れは、長いこと洗っていないみたいでスゴイ臭いがした。鼻が曲がっちゃいそう。ただ、呼吸のために空気を吸い上げた時だ。

「ん? これって……」

 一瞬。ほんの一瞬、腰に抱き着く手が緩んじゃった。子ネコだとしても相手はネコ。どうなったかは分かるよね。

 スルスルスルっと滑るように抜け出して、スーツケースとは逆方向に走って行っちゃった。

「おい、大丈夫……あっ、あいつめっ!」

 駆けつけた灼熱のマイケルが後を追おうとする。それを止めた。廊下にヒザをついたままの茶色いマイケルは、いぶかしがる灼熱のマイケルにしっぽでスーツケースの場所を示し、

「ピッケ」

 そう小さくつぶやいたんだ。

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