3-2:バイクネコ

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 スノウ・ハットを夜に旅立った2匹が、気力を充実させていたのは三日目の夜までだった。

 意気込みが疲れに変わってくると、頭が現実に引き戻される。

 着替えや食料、飲料水。野宿の覚悟はしてきたけれど、次の街への方向や距離までが分からないとなると、不安がひたひたと忍び寄ってくるんだ。

 なんとかなるさ、で押し通していたのも少し前までの話。不自由なく、快適な毎日を送ってきた茶色いマイケルにとって、今の状況は経験したことのないストレスだった。言葉にトゲが混ざるのも仕方のないことなんだ。

 慣れない暮らしっていう意味では灼熱のマイケルも同じみたい。

 旅慣れてはいるけれど、それは1匹での旅だからさ。相手のことを思いやりながらの行動は、今までの何十倍も疲れるみたいで、あっというまにヘロヘロになっちゃってた。元々体力はなかったんだけどね。

 そんな中で、飲み水すら無くなっちゃったらさ……。

 2匹の歩く道はひどく乾いていたんだ。

 砂漠ではなかったけれど、川は干上がり地面は割れて、食べられそうなものは枯れてさらさらと風に消えていく。まばらに緑は見えるけど、どれも水気のある実はってないみたい。

 手持ちの飲み物といえば、灼熱のマイケルのスーツケースに入ったシロップだけだったんだ。

 最初は「ないよりマシかな」って言って、ちびちび舐めてたけど、やっぱり原液で飲むものじゃないね。甘すぎるから口の中がひりひりしてきて逆にのどが渇いてきちゃった。わかってはいたんだけどさ。カラカラだったんだもん。

 そんなこんなで2匹は黙って歩くしかなかったんだ。

 出来るだけ乾かないように口を閉じ、体力を使い過ぎないよう目の前の道だけに集中してね。幸い、踏み固められた道はまっすぐ伸びていて、考えなくても歩くことができた。……これって幸いかなぁ?

 さて、背中を地面にべったりくっつけて空を見上げている2匹はというと。

 まだ日は高いけれど、午後も半ばを過ぎていた。そろそろ歩き出さなきゃなぁ、と力の入らないふにゃふにゃの身体を動かそうとしていたところ、

「何か聞こえないか?」

 と灼熱のマイケルが言う。茶色いマイケルはピッピッピッ、と耳を色んな方向に素早く動かした。

「なんだろう。震えてる?」

 地面を伝ってくる、低くて重い音。聞き覚えはあったけど……なんだっけ?

「いかんな、おい。そこの岩場に身をひそめるぞ」

 何かを感じたのだろう、緊張感のある声で言うと灼熱のマイケルがっと立ち上がった。茶色いマイケルも慌ててあとに続く。

 たいして大きくもない岩の陰に2匹は身を隠したよ。ちょっとはみ出しちゃってるから、動かないように気を付けなきゃ。

 ドルンドルンドルン

 激しい鼓動を間近で聴くよりももっとすごい音。エンジン音だ。

 砂煙がもくもくと、遠くに見えたかと思えばあっという間に押し寄せてきて、中からたくさんのバイクが現れた。すごい数。40台くらいあるんじゃないかな。それぞれにネコが乗っている。一台につき2匹か3匹だから……たくさん!

「みんな同じ服を着てるね。流行ってるのかな」

「あれは同じじゃない。汚れに汚れて似たような色になっているだけだ」

 茶色いマイケルは自分の着ているパーカーにちらりと目を向けて、黙った。

 バイクネコの集団は2匹の隠れている岩を勢いよく横切り、少し先の開けた場所に止まった。その辺りにはわずかに緑が残っていて、バイクから降りたネコたちは身をかがめると、その茂みに顔を潜らせた。

「マタタビ狙いか」

 バイクネコ集団は代わる代わる茂みに顔をつっこんでは、上機嫌になって起き上がり、空いている場所を見つけてゴロにゃんと寝ころんだ。

 踊るように身体を地面に擦りつけている。灼熱のマイケルの言うとおりマタタビだね。シロップ祭りの終わった夜遅くに、大人たちがああして遊んでいるのを見たことがあるんだ。

「あっ、ケンカを始めちゃった! ひぃっ、痛そうっ」

「あまり動くなよ見つかるぞ」

「見つかっちゃいけないの?」

「まだどういう連中か分からんからな。まぁ、バイクに乗って来たのにマタタビで悪酔いしているような連中だ。素行のいいヤツらではないことは言わなくてもわかるだろう」

 マタタビ運転は危ないからね。スノウ・ハットの街の中は、車やバイクの乗り入れが禁止されてるから、マタタビ運転の話はあまり聞かない。そもそも子ネコだしね。だけど一歩外に出たら、厳しいらしいよ。

「さてどうするか。ここでこうしていてもらちが明かんしな。いっそ奴らを殲滅してから先に進むか」

「怖いこと言わないでよ。それよりもさ、あのネコたちのバイクに乗せてもらうのはどう? きっとどこかの街から来たんだと思うし、気分のよさそうなネコもいるみたいだから頼めば「オッケー!」って言ってくれるかもしれないよ」

 灼熱のマイケルは、砂糖と塩を間違えたアップルパイを食べたみたいな顔をした。だけど少しして、パッと表情を変える。

「悪くない考えかもしれん。さっそく行ってみるか。ワシのそばから離れるなよ? 具体的には左側におれ」

 そこまで子ども扱いされなくったって平気だよ、と言いたかった茶色いマイケルだけど、ちょっぴりじゃなく緊張していたからね、言うとおり、灼熱のマイケルの左後ろに身を隠した。

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