2-9:『くらぁい くらぁい おおきな もり』

ホロウ・フクロウの大森林と灼熱のマイケル ホロウ・フクロウの大森林と灼熱のマイケル

***

 ご先祖ネコ様の丘へのぼる道。坂道にゆるやかな傾斜がみえたころ、林が広がりだす。

 その辺りは、スノウ・ハットに住む子ネコたちの秘密基地があちこちにある場所で、それを理由に茶色いマイケルは一緒について来たんだ。

 どういうことかわかるかい? つまりね、

「スノウ・ハットに住む子ネコにとって秘密基地は特別なんだよ。だから絶対に入っちゃだめだからね。あ、そっちに行くと秘密基地に行き当たるから、こっちこっち。ネコの匂いが薄いでしょう? この匂いを辿るんだ。迷路みたいだけど、こうすれば子ネコたちの秘密基地を通らないように歩けるからね」

 燃える炎の子ネコが子ネコたちの秘密基地に勝手に入っちゃわないように、道案内をしてるってわけ。

 ……そういう理由でってことだけどね。本当の理由? 決まってるじゃないかそんなの。そこでニヤリと笑ってる燃える炎の子ネコの顔に書いてあるよ。

「あい分かった。しかし秘密基地とはどういう意味があるのだろうなぁ。子ネコたちはそこに行って、いったい何をしているのだ?」

 その質問は意外だった。

「キミの国では秘密基地を持たないのかい?」

「アップル・キャニオンにはこれほど豊かな林はないからな。秘密にできる場所がない。まぁ岩肌に穴でも空ければあるいは隠れられるかもしれんが……」

 太陽の日差しがきつかったり、危険な虫がいたりするんだって。スノウ・ハットに住むマイケルにはあまり想像できない場所だった。

 秘密基地のある林をしばらく行くと、まばらだった木々が密度を増し、空が狭くなる。

「ここから先がホロウ・フクロウの林だよ」

「林? 大森林じゃなくてか?」

「全部まとめてホロウ・フクロウの大森林っていうんだ。この辺りはまだ木が少ないから林。奥の……あの暗いところから先がホロウ・フクロウの森だね」

 茶色いマイケルはぼそりと「昼間でもあんなに暗いんだなぁ」とこぼしたよ。

「さて、では行くとするか。ここまで助かった。案内はもういいぞ」

「……っ!?」

 その驚いた顔を見て、燃える炎の子ネコはククククといたずらっぽく笑った。いいや、いたずらだったんだよ。茶色いマイケルがどうしたいのかなんて、知ってるはずだからね。イジワル!

「冗談だ。しかし、大丈夫かとは問わんぞ。言いつけを破ってまで入るのはお前自身の選択でなければならない。まぁ怒られたときの言い訳くらいにはなってやれると思うが……」

「いらないよ」

 茶色いマイケルは少しムスッとしていたけれど、投げやりには言わなかった。

「ボクはこの先に何があるのかを知りたい。だから行くんだ」

 燃える炎の子ネコは満足そうに「ならば」と言った。

「なぜワシの後ろに隠れているのだ?」

 林の中へ踏み出そうとしたら茶色いマイケルがスッと後ろに下がって、燃える炎の子ネコの後ろに隠れちゃった! へなちょこだ!

***

 そういえばホロウ・フクロウの大森林のことを教わる時、子ネコたちはある絵本を読み聞かされる。

『くらぁい くらぁい おおきな もり』

 それが絵本の題名だった。表紙はほとんど真っ暗で、かすかに木々の輪郭だけがぼうっと浮かび上がり、深い森が描かれている。

 そして一対の眼。

 まん丸に光るその眼が怖くって、お母さんネコが絵本を取り出してくるたびに泣きそうになっちゃうんだ。目を離せば音もなく忍び寄って連れ去られる、そういう話なんだからなおさらだよ。

 そこに出てくる大きなフクロウの名前が、ホロウ・フクロウなのさ。

 ホロウ・フクロウは闇に溶け込む。闇そのものとなって、大森林に入り込んだ子ネコたちを眺めている。

 興味半分で入り込んだ4匹の子ネコたちは、どこからともなく聞こえる「ホーウ、ホーウ」っていう声に、だんだん元気がなくなっていくんだ。はじめは多かった口数もそのころにはなくなっちゃってる。

 そしてページをめくると、真っ暗闇に無数の目がびっしり描かれている。

 少したわんだ光る眼がびっしりと。

 怖がる子ネコたちをわらっているんだ。

 怖かったなぁ。もう見たくないって言っても、大事なお勉強よって言われてしつこく見せられたっけ。でもいつからか見せられなくなっていた。

 この絵本には、4匹の子ネコの結末がどうなったのか書かれていなかった。

 怖すぎて覚えていなかった、ということじゃないよ。4匹の子ネコが泣き出して、それをフクロウが「ホーウ、ホーウ」って笑いながら聞いている場面のあと急に、子ネコたちの家族が探している場面に変わり、けれど最後まで決して森へは探しに入らない。

 そんなふうに描かれていた。

 小さなころはよくわからない最後だなって思ってたけど、思い出してみるとさ、なんだか気味が悪いや。

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