4匹のマイケル

あわあわの世界

(148)いつかどこかのお茶会で。

***  大切ななにかを失うと、それを取り戻せと心が意識に働きかける。  だけど、もう取り戻せはしないんだと悟ったとき、心のひびは身体を伝って、意識を蝕んでいく。静かに喪われてゆく。  誰かを大事に思うネコは、誰かに大事にされるネコでもある...
あわあわの世界

(147)13:********

―*******  茶色いマイケルは、夜明け前の空がひそかに光を蓄えはじめたところを、ぼんやりと眺めていた。まばらに立った白樺の木が、地面にうっすらと縞模様の影を落としている。  どうして秘密基地にいるんだっけ。  そこに考えが及んだとき、...
あわあわの世界

(146)12-4:つめたい声

***  白のユキヒョウの背にまたがって、茶色いマイケルは『鉢植えの大森林』の中を駆けていた。  暗闇の中、ふかふかの背に抱きついてじっと目を凝らしていると、ぼんやり森の様子が浮かびあがって見える。顔にかかる白い息が、ここは故郷へと続く道な...
あわあわの世界

(145)12-3:不安の欠片

***  どうして自分だけが残っているのか。  その理由を求めるように、茶色は書斎にひろがる星々の間に視線を彷徨わせていた。すり寄ったマークィーが、1匹になってしまった子ネコの匂いを不思議そうに嗅いでいる。答えを知っていそうなボクが何も言わ...
あわあわの世界

(144)12-2:別れのしっぽクロス

***  ボクは世界に滅びを仕掛けた。  責められる覚悟はしていたけれど、こうして面と向かって言われるとつらいものがある。そう、この子ネコたちにとってボクは、彼らを追い立てるようにここまで導いた、とても悪いネコなんだ。  口を開いたのはボク...
あわあわの世界

(143)12-1:時別れの書斎

***  板チョコみたいな扉を開けて、ボクは茶色いマイケルたちを部屋に招き入れた。  『時別れの書斎』を見た彼らの目はキラキラしていたに違いない。だってここは星々の中にある部屋なんだから。  まず子ネコたちの目に飛び込んできたのは真正面の渦...
あわあわの世界

(142)11-11:恩赦の光

***  聖秤フェリスががしゃりと揺れた。  左の皿で寝ていた白猫が頭をもたげて起き上がり、すっと背を伸ばす。茶色の頭を丸呑みできそうな大きなあくびをひとつして、右の皿に目をやった。  そこでは小さな猫が2匹、互いのしっぽを追いかけ回してい...
あわあわの世界

(141)11-10:それでもね

***  深く、雪の中に沈み込み、それからどれくらい経ったのかは分からない。  赤ちゃんネコみたいに丸めた身体は、上を向いたまま静かに凍っていった。  けれど、頭の中ではもう次のレースが始まっていたんだ。  まず、広場に大きな穴が開いたらす...
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(140)11-9:雪の中へ

***  けぶる雪景色がぐらりと揺らぎ、茶色いマイケルは雪の上におしりをついた。  左手側、顔の近くなったキャティは、つかんでいた左足から手を離し、カリカリと傷口を爪で撫でながら言う。  一度逃げたヤツは何度も逃げるよ。  言い返す余地はあ...
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(139)11-8:ちっちゃい子ネコ

***  突如として飛び出した左手。傷をさらにえぐる爪の痛み。雪中から見上げる真赤な眼球。焼け爛れて肌の垂れ下がった顔。どれも震える理由には違いない。だけど怖気の元はそこじゃなかった。  このネコは、あの道から落ちたはず。なのになんで。そも...