スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル⑯

スノウ・ハットの銀世界と茶色のマイケル スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル

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 茶色いマイケルは、お母さんネコと チルたちのお母さんネコと一緒に、思い出話に花を咲かせていた。

 テーブルを囲んでアフタヌーンティーをペロペロ舐めながらね。もちろんぬるめだよ? 猫舌だからさ。

「あれで終わりだったら良かったのに」

 美しい銀世界を思い出し、静まり返った、冷たくて温かい場所を懐かしんだ。

 けれどお母さんネコたちはそうじゃないみたい。

「あら、その後が茶色いマイケルらしくっていいのよ。ねぇ?」

「うふふふふ。茶色いマイケルちゃんには悪いけれど、ワタシもそうね」

 二匹は口元を手で隠して笑った。

 こういうときってさ、笑い声を隠す気はないんだよね。もうっ!

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 銀世界で静寂に浸っていたのは、茶色いマイケルだけじゃなかった。

 それでも子ネコが400匹以上も集まれば、服の擦れる音だけでも騒がしい。辺りはすぐに活気づき、わいわいガヤガヤとお祭り騒ぎさ。

 いいよね? これは本当のお祭りなんだから。

 茶色いマイケルはみんなに向かって、

「ようし、みんなこの屋根のはしっこを、ぐるん と取り囲むんだ。ちょびっとだって新鮮な雪を逃がしちゃだめだぞー?」

 と大きな声で話しかけた。「逃げないよー」とキャイキャイ笑う子ネコたち。待ちきれなくて飛び出しそうな子ネコもいるみたいで、近くにいた 年上ネコさんが首根っこをつかんで止めている。

 「あれ?」と思う表情があった。すぐに「ははーん」と理由が分かった。

「シロップを持っているネコは、持ってないネコの近くに行ってあげてね! たっくさん かけちゃっても大丈夫! いっぱい走ったからお腹すいてるでしょう?」

 もっちろん! っていう頼もしい声があちこちから聞こえてきて、シロップを持った子ネコたちが錆びいろ子ネコの周りに移動する。不安げだった錆びいろ子ネコたちの目がキラキラと輝いた。ふふふ、分かりやすいんだから!

「ボク、もうお腹ペコペコー!」

 声の主は 太っちょ子ネコ。お腹をさする姿があった。

 あれ? ちょっと痩せてない!?

 子ネコたちを担いだりして大活躍だったからね。小さな錆びいろ子ネコたちが周りで うろちょろしてる。人気者さ。

「おなかちゅいた……」

 そうだ そうだ そうだった! 中心部の子ネコたちの中にだって あんまり食べてない子ネコがいたんだった! 女の子子ネコの顔がみるみるうちに泣き顔に! 待てなくなるのも時間の問題だ。そうと分かればゆっくりはしていられないぞ。

 茶色いマイケルは、えいっ!

 思いっきりジャンプした。雪雲まであとちょっとで手が届く高さから、みんなに呼び掛ける。

「じゃあみんな、シロップを掲げて!」

「「「おーーー!!!」」」

 風が起こりそうな勢いで ビンを空に突きだす子ネコたち。

 着地して、それからもう一度高く、ジャーンプッ!

 空の高いところの冷たい空気を、めいっぱい吸い込む 茶色いマイケル。そして、

「シロップ祭りのはじまりだーーー!!!」

 ゥゥワッッ! と屋上が沸き立った。

 キュポンッ、とコルクが抜かれると、シロップの あま~い香りが広がっていく。部屋にいるわけでもないのに匂いが充満するって、スゴくない?

「そぉれぃっ!」

 シャッ、と豪快に振りまかれた色とりどりの蜜は、真白の雪に子ネコたちの夢を描いているみたいだ。

 赤、だいだい、黄、緑、紫。

 梨子色に 林檎の優しい白。

 ところどころが混ざり合って、他の色に変わったりもしている。

 かき氷を小さなスコップで食べている子ネコもいれば、鼻が埋もれちゃいそうなくらい顔を突き出して食べている子ネコもいた。みんなもう夢中さ。

「ほら、シロップを足すからね」

 お腹ペコペコだったのかな、錆びいろ子ネコたちはシロップが無くなっても気づかない。口の中の甘い香りだけで、雪を食べちゃってるんだ。

 シロップを持った子ネコたちは時々顔を上げて、夢中で食べている錆びいろ子ネコたちの前の雪に かけ足してあげてるよ。

 そうしてどんどん雪が減り、屋上を取り囲んでいた子ネコたちは真ん中のほうへとその輪を狭めていった。

 シロップを振りまく。色が混ざり合う。輪が狭まる。

 シロップを振りまく。色が混ざり合う。輪が狭まる。

 子ネコたちのシッポが擦れ合い、おしりがぶつかり合って、耳までくっつく距離になる。

 レモンとぶどうのシロップが。

 オレンジと梨のシロップが。

 イチゴとメロンのシロップが。

 それぞれ混ざり合い、別の色に変わって――

「ニャギャ――――――――!!!!?」

 ――誰かが悲鳴をあげた。誰だろう?

 茶色いマイケルだ!!

「ちょ、ちょっと待ってそれは……ニャギャ――――――――!!!!」

「「「「「どうしたの茶色いマイケルお兄ちゃん!??」」」」」

 チルたちが駆けつけた時にはもう、茶色いマイケルの しっぽは子ネコたちでいっぱいだった。みんなどういうわけか茶色マイケルのしっぽを雪だと思ったみたい。

 ああそうか!

 見てごらん? イチゴとメロンのシロップが重なっているところを。

 赤と緑が混ざり合って、茶色になってる!

 穏やかなその色は、茶色いマイケルの しっぽと同じ色じゃないか!

 茶色いマイケルはそのあと、シロップまみれになって家に帰ったんだ。しっぽには子ネコの歯型をたくさんつけてさ。あー痛そぅ!

 笑わないであげてね?

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