スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル⑮

スノウ・ハットの銀世界と茶色のマイケル スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル

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 迷路街を駆け回る子ネコたち。

 茶色いマイケルを先頭に、路地という路地が子ネコで埋め尽くされる。

 子ネコたちは 途中でごっちゃごちゃに混ざり合い、誰がどこに住んでいる子ネコなのかさえ、分からなくなっていた。

 いいさ、みんなまとめてスノウ・ハット!

 同じ街の子ネコだもん。

 そんな群れの走りはね、追いかけっこなんていうカワイイものじゃ済まなくなっていたよ。どどどどどどどって地面が戦慄わなないている。

「なんだなんだ」と顔を出した大人のサビネコたちは肝が冷えただろうなぁ。地震だと思ったネコもいたみたいだしさ。

 けれど子ネコだって、みんなが みんな 元気だったわけじゃないんだ。中には「疲れたよぅ」って、座り込んじゃいそうな子ネコもいた。それを見かけた太っちょネコが「ほうらボクが背負ってあげる」と言って持ち上げてたけどね。

 茶色いマイケルは、遠く聞こえるそのやり取りに、うんうんって感心したよ。

「あの子はどこだろう」

 あの日、お弁当をおいしそうに食べてくれたあの子。

 誰も知らない秘密の縄張りを教えてくれたあの子。

 鼻の下が真っ黒な、サビネコ子ネコ。

 茶色いマイケルたちは、二階の窓に子ネコがいれば おいでおいでをし、3階の窓のカーテンがしまっていたなら大きな声で呼びかけて、どこからか小さな寝息が聞こえたならば「遊びに行くよー!」と誘いをかけた。だけどあの子の姿は見当たらない。

「変だなぁ、この辺に住んでるんじゃないのかなぁ」

 子ネコたちはもう結構な距離を走っている。そろそろ休ませてあげないと、いくら元気なチルたちだって目を回しちゃうかも。

 茶色いマイケルは首をかしげて のどをゴロゴロ鳴らし、そして少しだけ走る足を緩めた。

「ねぇキミたち、この辺で鼻の下が真っ黒な サビネコ子ネコを知らない?」

 追いかけていたはずのお兄ちゃんネコがスッと横に来たもんだから、話かけられた子ネコは「ミャッ」と小さく口を開けて驚いた。

「そ、それならたぶんピッケのことだと思う。だけどピッケは……ぼくたちも知らない遠い場所に行くって、おっちゃんが言ってた。ピッケのおっちゃんじゃなくって、よその国から来たおっちゃん。それから見てないよ」

「ピッケ。ピッケね。……元気だといいなぁ。教えてくれてありがと!」

 茶色いマイケルはおもいきり地面を蹴った。

 お礼を言われた子ネコは面喰っただろうなぁ。ビュンッて、すごい速さで飛び出したんだからね。ハッとしたときにはもう手を伸ばしても届かない距離にいたしさ。

 茶色いマイケルは見覚えのある家の角を曲がって裏路地に入った。そして一匹で来た時みたいに壁をつかみ、えいっ、ぐんっ!

 ぐんぐん壁を上ったよ。

「茶色の兄ちゃん……すごいや!」

 後ろからさっきの子ネコの声が聞こえた。茶色いマイケルはピンと耳を立て、しっぽを伸ばしてみんなにゴールを示す。

「ほら、みてごらん! シロップ祭りはこの上さ!」

 下に集まっていた子ネコたちが、わぁっ と喜びの鳴き声をあげた。その声は波のようにうねりながら迷路街を巡っていく。

 まるで世界中の子ネコたちを幸せに導いているみたいだった。

 誇らしかった。

 偉そうだって? そうかもしれない。その瞬間は子ネコたちの英雄になったみたいな気がしていた。それは本当のことだからね。気分もいいはずさ。

 ただ、そのことを茶色いマイケルは一切口にはしなかった。だからさ、茶色いマイケルがそう思ったってことは、誰にも言わないであげてね。

 ふわりと雪が舞う。

 かすかにイチゴシロップの香りが漂う。

 屋上には みんなで食べても 食べきれないくらいの雪が広がっている。

 それは一度見た景色だったけれど、さっき一匹で来たときとは全然ちがうもの。

 みんなの到着をお祝いするように降りだした雪が、風に舞い踊る。

 雲間から差し込んだ光を受けて、煌めき、そして笑う。

 遠くの雪雲が太陽を遮り、世界を銀色に染め上げていった。

 ――銀世界。

 子ネコたちだけの世界が、そこには広がっていたのさ!

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