スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル①

スノウ・ハットの銀世界と茶色のマイケル スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル

 今年のスノウ・ハットにはあまり雪が降らなかった。

 スノウ・ハットと言えば毎年たくさんの雪が積もることで有名で、冬になるといろんな国から様々な種類のネコたちが集まってお祭りを楽しむんだ。

 道はもちろん、街路樹にも雪。建物にも、街の夜を灯す外灯にだってたくさんの雪が積もる。どこもここも真っ白になって、その上を、いろいろな毛色のネコたちが楽しそうに歩いていく

 どうして楽しそうなのかって? それはネコたちが手に持っている物を見ればわかるよ。

 そう、かき氷のシロップさ。

 これさえあれば かき氷が食べ放題。イチゴにメロン、レモンにオレンジ、ぶどうや梨やリンゴだってあるんだから。冬だっていうのにこれだけの果物を食べられるなんて、とっても良いお祭りなのさ。

 だけど今年、スノウ・ハットにはあまり雪が降らなかった。

 降ってもすぐに溶けてしまって、道にも樹にも雪はほんの少ししか残ってない。

 外灯どころか街で一番背の高い教会の、そのまたてっぺんにある時計台の屋根にさえ、雪はなかった。迷子になっちゃうくらい全部ぜんぶが真っ白になるはずなのに、今年はシロップをかけられるところが ちっともないんだ。

***

 茶色いマイケルは街に向かって、ゆっくりと足を運んでいた。

 いつもならネコたちでごった返す道が、今日はスカスカの寒天みたいだ。寒さなんてへっちゃらなはずなのに、なんだかとっても風が冷たいや。

 『氷の大噴水広場』の途中で、よく知った後ろ姿を見つけた。

 1、2、3、4、5。

 5つ子のチルたちだ。

「おーい、チルー!」

 できるだけ明るく、声を振りしぼった茶色いマイケル。

 だけど、どうしたんだろう。いつまでたっても5匹はこっちを向こうとしない。

 いつもなら「茶色いマイケルお兄ちゃん!」って言いながら、こぞって駆け寄ってくるんだけどな。

 その理由は近づいて顔を見たらすぐにわかったよ。

「わっ、なんだいその顔は」

 5匹のチルたちは茶色いマイケルの驚く声を聞いて、弱々しくしっぽを動かした。

「茶色いマイケルお兄ちゃん」

 そう言ったのは一番年上のチルだった。……一番年上の、だったと思う。

 よく似た顔の5匹たけど、茶色いマイケルはチルたちを見間違えたことがない。いつもならすぐに誰が何番目のチルなのかわかるんだ。

 一番上のチルの目はパッチリ開いていて、二番目のチルはほとんど閉じている。三番目のチルは一匹だけ眼鏡をかけているし、四番目のチルは まばたきの回数が多いから二秒待てばわかる。五番目のチルは……いつも眠そう! これだけ違っていればすぐにわかるよ。

 なのに、ちっともわからない。

 みんな目がショボショボで、10年くらい泣き明かしたみたいだった。

 誰も眼鏡をかけていないし、瞳が濡れっぱなしだから まばたきの必要だってない。おしりの匂いを嗅ごうかとも思ったんだけど……どうも今はやめておいた方がいいみたいだ。

 茶色いマイケルはとても悲しい気持ちになったよ。だって5匹の気持ちがすごくよく分かったんだからね。

 しょぼくれた目が5匹分、茶色いマイケルを映した。

「みんなもう今日は家におかえり。明日になったらきっと街一杯に雪が降るよ。そうしたら去年みたいにあちこちの屋根にのぼろう。真新しい雪の中にダイブするんだ。さらっさらの雪がきっと気持ちいいよ」

 そうなったらいいな。

 茶色いマイケルはお願いをするような声で5つ子のチルたちをなぐさめた。5匹は少しだけ目を開いたあと、

「うん、ぜったいだよ」

 つぶやいて、茶色いマイケルの通ってきた道を引きかえして行った。土混じりの雪の上に、5匹分のしっぽのあとが延びていく。

「何か、見つけなきゃなぁ」

 思いきって声にしてみたけれど、積もるのは焦りばかりなんだけどね。

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