3-28:鼻歌

メロウ・ハートの廃都市と果実のマイケル メロウ・ハートの廃都市と果実のマイケル

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「この植物は、木の実の国から伝えられました」

 街のネコたちの注目がリーディアの花に集まる中、ピッケが語っていく。

「その根っこは瓦礫がれき錆鉄さびてつ、汚れた水などを分解して、空や大地に戻すことができます。葉っぱは空気中の水分を集め、実を育てます。そうしてできた実はみずみずしくて、味もおいしく食べ応えもあります」

 肩を並べて語り掛けるような声は、耳にすっと染み込んでくる。

「木の実の国から来た使者は、こう教えてくれました。「この実の名前は『あの演劇』がもとになっているんだよ」って」

 『あの演劇』が何を指すものなのかは言わなかった。

 メロウ・ハートのネコたちは顔を上げたまま、大きな目で花を見つめたまま、いっぱいの潤いをその瞳に湛えていたよ。

 隣にいた灼熱のマイケルは、

「なかなか堂に入った演説ではないか、ピッケのやつ。素養の高さが伺える。ご尊父の教育の賜物だろうな」

 なんて、かたっ苦しくピッケを観察していたけどね。

 ピッケが『長靴を売ったネコ屋』を飛び出したあの夜、茶色いマイケルは後を追いかけた。匂いを辿るまでもなく、どこにいたのかは分かったよ。それはあの屋根のない部屋。ピッケの生まれた家さ。

 茶色いマイケルが着いたとき、ベッドに腰かけたピッケは、星明かりだけの部屋で鼻歌をうたっていた。うろ覚えだって言ってっけ。とてもそうは思えないくらい心地良い響きだったけどね。

 その鼻歌からは言葉にするまでもなく伝わってきた。何をしたいのか。何に悩んで、何をどう苦しんでいるのか。そして何を決めたのか。

 だからさ、茶色いマイケルは走りながら考えたあれこれを胸の奥にしまって、隣でその歌を聴いていたよ。他のネコの言葉なんて必要ないって思ったんだ。

 あと少しで鼻歌が終わるっていう時に、灼熱のマイケルと果実のマイケルがケンカをしながら来て、台無しになっちゃったけどさ。

「ねぇねぇ、お腹すいたでしょ? オイラがまた美味しいシチューをたくさん作ってあげるぅ」

 お腹をぐうぐう鳴らしている果実のマイケルにはちょっと呆れたけど、そのお腹を2匹のマイケルがつまみ上げるとピッケはキャッキャと細い声で笑ったんだ。

 その後だよ。たっぷりのシチューを食べながらカラバさんが提案してくれた。今舞台上で行われていることをね。

 色々準備して回ったんだよ? とっても大変だったんだから。ま、今も忙しくしているマイケルがいるんだけどさ。

「あれは半分趣味みたいなものだ。罰にはならんからあとでまた言い含めておかねば」

 まぁまぁ、となだめる茶色いマイケルは、赤サビさんから聞いた話を思い出す。何の話かというとあのマイケルの話だよ。この舞台の地下で箱詰めにされていたあのマイケルのね。

「果実のやつめ、バイクネコたちに遊び半分で箱詰めにされたなどと言っておきながら、結局はあいつの自業自得ではないか」

 プリプリ怒っているのも仕方がないかな。果実のマイケルがあんな小屋に閉じ込められたのは、バイクネコたちの食べ物を勝手に食べちゃったからなんだって。しかも、5日も何も食べてないようなことを言ってたけどさ、食べ物は毎日貰ってたらしいんだ。どうしてそんなこと言ったと思う? 果実のマイケルの言い分はね、

「あんなの食べた内に入らないよぅ」

 だって。この街の様子を見ていながらそんなことを言うんだからさ、茶色いマイケルにも庇いようがないや。

 そんなどうしようもない子ネコのことを考えていたら、どうしようもない子ネコが大きな鍋を抱えて地下からせり上がってきた。

 何匹かのバイクネコたちも一緒にいて、鍋や食器をたくさん持ってきたみたい。メロウ・ハートのネコたちへのお知らせや準備なんかもいろいろ手伝ってくれたし、ホント頼りになるなぁ。灼熱のマイケルももう一度くらい謝った方がいいかもしれないね。

 それにしてもさ。舞台装置を使わなきゃ持って上がれないってのは分かるけど……ピッケがまだしゃべってる途中に出てくるのはやめてほしいよね。

「さぁ、みんなできたよぉ。早くいただきますしよぉ」

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