3-9:果実のマイケルと小さじ

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 トタトタトントン、トタトタトン

 まな板の上で踊る包丁。石作りのかまどに火がおきて、パチパチと音を立てる。

 いよいよ星も出そろったという時間、茶色いマイケルたちは借りた小屋に戻ってきた。

 灼熱のマイケルは到着するなり「血抜きしたニワトリを解体するから手伝え」と茶色いマイケルに言ったんだけど、肥えた子ネコが「オイラがやってあげる」と手を挙げてくれたんだ。その流れで料理までしてくれてるってわけ。

 首のないニワトリの毛を毟ったり、内臓を取り出したりするのを茶色いマイケルは怖がっていたからね、ラッキーって思ったよ。

 ただ、肥えた子ネコの解体する様子を見ていると、不思議と気持ち悪いとか怖いとか感じなかったな。それくらい手慣れているってことかもしれない。

「おいしい物があればどこでだって幸せに過ごせるからねぇ。料理は覚えておいた方がいいよぉ」

 のんびりした口調とは別に、手元ではテキパキと調理が進んでいる。

「ただの豚ネコじゃなかったらしいな。ところでお前、名はなんと言う」

 茶色いマイケルはクスッと笑った。ぶっきらぼうな言い方だったけど、こんなに早く名前を尋ねるなんてね。

「オイラはマイケルだよぉ。オマイラはぁ?」

「ワシもマイケルだな」

「ボクもマイケル」

「そうなんだぁ。まぁ、マイケルの10匹や100匹、いてもおかしくはないよねぇ」

「そうだな」

「そうだね」

 さすがに100匹のマイケルが同じ街にいることはないと思うけどね。2匹は自分たちが『茶色』と『灼熱』で呼び合っていることを話した。

「じゃあオイラのことは『果実かじつ』って呼んでもらおうかなぁ。国ではみんなにそう呼ばれてたからねぇ」

 反応したのは灼熱のマイケルだ。座っている木の椅子をぎしりと揺らし、

「お前、木の実の国の出身か」

 と身を乗り出した。

「そうだよぉ。よくわかったねぇ」

 果実のマイケルは調理を続けながら肩越しに振り返る。

「あの国とワシの国とは、ちょっとした付き合いがあるからな。呼び方や見てくれで何となくわかる。たとえばその垂れた左耳。お前、おう」

「わーわーわーわー。オイラそういうんじゃないってぇ。今は食べ歩いているだけの果実のマイケルなんだから」

「ほらほら包丁を振り回しちゃ危ないよ!」

 調理台に立つ果実のマイケルと、その右隣で椅子に座っている灼熱のマイケル。目の前の2匹に注意をした茶色いマイケルは、肩をすくめて隣に話しかけた。

「まったく……困ったもんだよ。ねぇ、ピッケもそう思わない?」

 布切れを掛けただけのおんぼろソファー。その端に腰かけているのはボロをまとったピッケだった。ピッケは話しかけられると少しだけ顔を上げ、コクリとあごを引いた。

 ピッケ。

 スノウ・ハットの迷路街に住んでいたサビいろ子ネコ。口元にある黒い模様が特徴的な子ネコさ。

 ピッケと茶色いマイケルはたった一回しか会っていない。だけどその一回がスノウ・ハットの子ネコたちに楽しい思い出を作ってあげたって言っても、言い過ぎじゃないよね。

 そんなピッケがどうしてこんな、ボロボロにさびれたメロウ・ハートにいるのかは……実はまだ聴けていないんだ。ピッケの家に忍び込み、寝ているピッケの肩を叩いて起こすと、当たり前だけど全身の毛を立てて爪をむき出しにした。だけど、茶色いマイケルが「ピッケ」って名前を呼んだらさ、

「……お兄ちゃん?」

 って。

 覚えててくれたんだね。それから話を聞こうと思ったんだけど、

「ねぇ、荷物も戻って来たしぃ、とりあえずご飯食べなぁい? オマイラ今日、鶏肉料理でしょう?」

 果実がこんなことを言いだしたんだ。あの鼻はどこまで利くんだろう。そういうわけでピッケも連れて小屋に戻ってきたってわけ。無理矢理にじゃないよ。疲れてるみたいだったから灼熱のマイケルがおんぶしていたし。ピッケはちょっと強張ってるみたいだったけどさ。

「はぁい、シチューができたよぉ」

 果実のマイケルは、座っている3匹の真ん中あたりに大なべを運んできた。床には板を一枚敷いてね。フタを取ると白い湯気のかたまりが夏の雲みたいに膨れ上がって、それからとってもいい匂いが部屋中に広がった。4匹の鼻息が重なって、なんだか可笑しかったな。

「ん? そういえば器も匙も用意しとらんかったが……」

「スプーンは全員分あるよぉ。大きさがバラバラだけどねぇ。器はごめん、用意してないやぁ。まぁオイラは自分の分があるからこれ使うんだけどねぇ~」

「ばかもの。子ネ……ピッケにやけどさせる気か」

 果実のマイケルの持っていた木の器をパッと奪い取り、それにたっぷりのシチューをお玉でついでピッケに持たせた。「こぼすなよ」なんて真面目な顔で言ってはいるけど、やっぱり猫が良い。果実のマイケルも「ちぇ~」と言いながらスプーンをみんなに配ったよ。

「おい、ワシの匙、小さすぎやせんか」

「あふふ。体の大きさに合わせただけだからぁ。ピッケにはやけどさせちゃダメなんでしょぉ? じゃあ仕方ないよねぇ」

「くっ……こんな小さじでもないよりはマシか。しかし何杯すくえば腹は満たされるのか」

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