2-7:熾火

ホロウ・フクロウの大森林と灼熱のマイケル ホロウ・フクロウの大森林と灼熱のマイケル

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 だけど燃える炎の子ネコの年齢を聞いたとき、茶色いマイケルはぴくっと耳を尖らせた。

 ちっちゃくて、声が高くて、物知りな、そんな子ネコは茶色いマイケルと同じ歳だったんだ。

 少し上でも、少し下でもなく、同じ歳。

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「ワシはさらなる冒険を求めているのだが、どこか心当たりはないか」

 茶色いマイケルたちは氷の神殿を出て、広場のわきにあるベンチに座っていた。

 出店で買ったカリカリチップ入りのアイスを舐めていると、燃える炎の子ネコがそう尋ねてきたんだ。

 さらなる冒険。

 その言葉を聞いて頭に浮かんだのは、迷子の子ネコを連れて坂道を下っていたときのこと。あの時も同じような気持ちになった。

 少しだけ話を戻すね。

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 氷の大噴水広場へと続く曲がりくねった下り坂がおわりに近づいたころ、やがて教会の影にさしかかる、そんな場所で迷子の子ネコがこんなことを言った。

「ボクね、雪の道をずっと追いかけてたんだ」

 雪の道。

 今年のスノウ・ハットに残っているわずかな雪。

 路肩や、日の当たらないところにだけ、ちょっとずつ残っている雪。

 燃える炎の子ネコは「ふむふむ」とにこやかに聞いていたけれど、茶色いマイケルには、ちょっぴり苦々しい話だった。

「雪ってね、ふんだらザックザック音が鳴るでしょう? それがオモシロくって、雪のないところを踏まないように歩いてたら、知らないところに出てたんだ」

「道を追いかけていたら、か。深いな」

「ん? 雪はあさいよ?」

 カラカラと高い声で笑う 燃える炎の子ネコ。ちぐはぐな会話もちっとも気にならないみたいで、2匹の話は盛り上がっていたよ。

 なんだかたまらない気持ちになって、茶色いマイケルがこんな風に言った。

「雪が無くてがっかりしたでしょ」

 言ってしまった後で、話に水を差してしまったと気づいた。だけど、

「ちっとも! だってボクんとこ、雪なんかぜーんぜん降らないの。踏んだりつかんだりした雪の音なんて初めて聞いたし思ってたよりあったかいってことも初めてわかった! とっても楽しい! お兄ちゃんたちにも会えたしね!」

 なんて明るい笑顔なんだろう。この子ネコは本物のシロップ祭りを知らなくっても、ただ雪が降ってるっていうだけでこんなに喜んじゃえるんだ。

 茶色いマイケルはのどをゴロゴロと鳴らしたよ。リラックスしてるのかって? どうだろう。ネコのゴロゴロは、そうじゃない場合もあるんだよね。

「ボウズはワシと似てるかもしれんな」

 迷子の子ネコは爆笑した。「ぜんぜんちがうよー」とお腹を抱えて笑っている。

「その先に何があるのかをただ見たいだけ。それだけでワシも歩いてきた。それだけで、歩いて行けるのだ」

 それに、と茶色いマイケルの方に耳を向けて、

「知らない街にはいろいろな冒険や出会いが待っていることも知っている」

 と高い声で笑った。

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 あの時に向けられた耳を思い出すと、茶色いマイケルはドキッとする。

 胸を内側から突っつかれたみたいな感じがして息苦しくなるんだ。それは今も同じだった。

 さらなる冒険。

 二匹の子ネコは知らない場所を求めて歩いた。じゃあ茶色いマイケルは?

 雪が降らないからと言いわけをして、それからどこを見ただろう。誰かのせいにしたんじゃなかったのかな。

 しっぽが縮んじゃう。猫背がもっと丸まっちゃう。

 たぶん、このままじゃいけないんだ。

 雪を待っていても何も起こらない。

 誰かのせいになんてできないし、何か……何か。

 身体の奥底から熱いものがみるみる湧いてくる感じがした。それが頭のてっぺんの、耳の先の先まで通ったとき、噴水のわきに残ったわずかな雪が、チラリと光った。光が、茶色いマイケルの大きな瞳に飛び込んできたんだ。

「冒険が、あるかもしれない」

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