2-1:くねくね曲がった坂道

ホロウ・フクロウの大森林と灼熱のマイケル ホロウ・フクロウの大森林と灼熱のマイケル

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 意地悪なくらい、天気に恵まれた 冬の午後。

 茶色いマイケルは一匹、くねくね曲がった坂道を、ぼんやりと下っていた。

 この辺りはスノウ・ハットの街でいちばん新しい。

 平地の多いこの街は、お祭りの評判もあって、住みたいっていうネコが多いんだ。だけど 場所がない。平らなところはどこももう、家か道になっちゃってる。丘の上はお墓でいっぱいだしね。

 だから坂を平らにして住宅地を作ることになったんだけど、ネコたちの力だけじゃそんなに大掛かりな工事はできないでしょ? ショベルカーやブルドーザーなんかの重機もあるにはあるけど、すっごく揺れるからさ、ネコたちはあんまり乗りたがらない。そうなるとちょっとずつ家を作るしかないよね。

 この辺は建てやすそうだ。この辺は急すぎる。こっちはどうだ、あっちはどうだ……ってね。

 そうやってバラバラに建てられた家々をつなぐように道を作ったものだから、ここは曲がりくねっているっていうわけ。

 ここから見える景色は、丘の上に見える ネコの手の形をした塔くらいのものだね。スノウハットを見下ろしているご先祖ネコ様のお墓だ。

 ……今年、雪が降らなかったのは、もしかして。

 ちがうちがう。左右に頭を振って否定する。だってそうでしょう? 茶色いマイケルたちは毎年、氷の神殿できちんと”遊びを捧げて”いたんだからさ。絶対に、ご先祖ネコ様が雪を止めたなんてことは、ない。

「はぁ……。おうちに帰ろうかな」

 思い切って言葉に出してみると、すっごく胸が苦しくなった。

 去年の今頃はたくさん雪の積もった迷路街を駆け回っていた。楽しい話やとってもきれいな銀世界の話を、お母さんネコに聞かせてあげられたんだ。

 なんだかふわふわと 空へ飛んでいっちゃいそうな気持ち。これじゃいけないと、茶色いマイケルはほっぺをペシペシ叩いたよ。

「今日はシロップ祭りの日。スノウ・ハットの子供たちは笑っていなきゃ」

 そう、茶色いマイケルはもう お兄ちゃんネコって呼ばれる歳ではあるけれど、まだまだ子ネコなんだ。子ネコは笑っていなきゃいけない。

 頬のヒゲを引っ張って、にぃっと笑顔を作ると、胸の奥で爪とぎするような気持ちが少し和らいだ。

 何かすればいい。

 そんな小さなつぶやきが、頭の中から聞こえた気がしたんだ。

 じゃあ何をする? 外に出てから今までに起こったことを話すだけでも お母さんネコは喜んでくれるかな? まずチルたちにあって、氷の大噴水広場でいろんな親子連れを……ううん。それはやめておこう。

 ああでもない こうでもないとゴロゴロ唸りながら下る坂道の途中、茶色いマイケルの耳は子ネコの鳴き声を捉えた。ピクピクッと耳が動いて向きを探る。こっちだよ。

 わき道をのぞき込むと一本向こうの通りに、うな垂れたしっぽの先が見えた。茶色、黒、白。三毛の子ネコみたい。タタッと駆け寄って、

「どうしたの? ケガしたの?」

 と驚かせないようにそっと声をかけたんだ。

 両手で目をこすっていた三毛の子ネコは、のぞき込むような目で茶色いマイケルを見上げて、

「おがあざんねごじゃ、な゛い゛ぃぃ」

 って口を大きく開けて、また泣いちゃった。あらら、どうやら迷子みたい。

「お母さんネコを探してるんだね。こんなに汚れるまで、えらいね」

 三毛の子ネコの服は泥だらけだった。もう乾いていたけれど、溶けてジャリジャリになった雪の上で、前のめりに転んじゃったみたい。アゴの下まで汚れがついている。きっと、はぐれたって気付いてから一生懸命探したんだよ。それでも見つからなかったから、こんなところで泣いちゃってたんだ。

 微笑ましくって。茶色いマイケルは 緩みかけた口元をそのままに、

「大丈夫、お母さんネコはボクがきっと見つけてあげるから」

 と少ししゃがんで、ゆっくりと頭をなでたよ。

「……ほんと?」

「ホントもホント。ね、まずは汚れをふいて」

「ほんとにお母さんネコのとこに連れてってくれる?」

 思ったよりもつよい力で、三毛の子ネコが袖口をひっぱった。茶色いマイケルは涙と泥とで汚れているその手に、力強く肉球を重ねた。

「きっとさ! ボクに任せて。きっとキミをお母さんネコのところに連れて行ってあげるから。不安かい? 広い街だからね、心配になるのもわかるよ」

 でもね、とアゴについた泥を手で拭ってあげる。三毛の子ネコは目を細めた。

「ボクはこの街、スノウ・ハットのネコだからね。街のことなら隅から隅まで知ってる。知り合いだっていっぱいいるしね。だからキミのお母さんネコがどこにいたとしても、ボクなら探してあげられるよ。案内だってしてあげられる」

「ほう、それはいいことを聞いた」

 えっ、と目を見張ったのは茶色いマイケルだけじゃない。子ネコもパッと泣き止んで、二匹はくりっとした目の奥をのぞき合っていた。

 キミじゃないの? ううん、お兄ちゃんじゃないの?

 二人はふるふると顔を横に振ったんだ。

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