4-26:第2ポイント 噴石②

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 異変にいち早く気づいたのは先行していた虚空のマイケルだ。事前調査で噴石地帯ということは調べてあったからね、頭上も警戒していたんだろう。

「くるぞ」

 立ち止まり、噴石に向かって指をさした。茶色いマイケルたちは早足で虚空のマイケルのところまで行きつつ、示された空を見上げたよ。音はする。だけど見えるまでにはしばらくかかった。

 虚空は目がいいんだね、なんてのんきに構えてたんだけどさ……。

 噴石は、つぶてなんていう可愛らしいものじゃなかった。

 子ネコたちの顔ほどもある岩石が物凄い速さで4匹のマイケルたちの周辺に降りそそぎ、ドッカンドッカン小っちゃなクレーターを作るんだ。装備を整えてなかったら飛び散った破片だけで大けがをしていただろうね。恐怖で毛が真っ白になっちゃいそうだったよ。白いマイケルさ。誰だか分かんなくなっちゃう。

「いかん! 避難を――」

 4匹は避難想定訓練も受けてはいたからすぐに岩場や穴なんかを探した。ところが辺りはまっ平らで、すぐそばには隠れられる場所はまったく見つからない。そこへ、

「ワシが砕く! 3匹とも背後で身を屈めていろ!」

 と灼熱のマイケルが素早く4匹のマイケルを一か所に集めた。そして、

っ!」

 大きな噴石を、文字通り粉々に砕いたんだ。

「壊っ! 壊っ! 壊っ!」

 右ネコ正拳突き、左上段前ネコキック、右回しネコキック、と次々と宙を舞うように岩を破砕していく子ネコ。

 凄まじい技の切れと威力で、初めて目の当たりにした果実のマイケルや虚空のマイケルだけじゃなく、茶色いマイケルまでもが思わず仰天しちゃう。ホロウ・フクロウの森で闘った時とはまるで違うネコみたいだったんだ。まだ噴石が終わったわけじゃないっていうのに、この安心感ときたら、ほんと頼もしいよ。

「な、え、コイツぅ、ヤバくなぁい……?」

 果実のマイケルも噴石のことなんてお構いなしに、たぶん自分のことを考えてるんだろう。これからの付き合いかたとかね。

 だけど虚空のマイケルは違った。

 しばらくは3匹一緒にかたまってじっと頭を伏せていたんだけど、果実のマイケルが口を開いた後くらいから、ブルブルと震えだしたんだ。茶色いマイケルは心配だったから「大丈夫?」って尋ねてみた。そしたら顔を上げ、

「くっ、すまん!」

 って歪んだ表情で言うなり、素早く周囲を確認して飛び出しちゃった。

「あっ、ちょっ、まっ!?」

「えぇっ!?」

「お、おい待て虚空! 大人しくワシの後ろに隠れていろというのが分からんのか!」

 次々と降り注ぐ噴石を砕きつつ、灼熱のマイケルだけがまともに叫び声をあげる。どくん、どくん、と焦りが伝わってきて息が苦しくなった。だけど返事はやっぱり、

「すまんっ」

 だったんだ。

 駆け出すその背中を見て、今回は3匹ともすぐに行動した。

 噴石は止むことなく降り続いているから悠長に驚いてなんていられない。言葉を交わす時間さえ惜しんで目だけで合図し、3匹揃って虚空のマイケルを追いかけたんだ。

 茶色いマイケルが全力で駆けていれば追いついたとは思うんだけど、噴石を避けるために2匹と動きを合わせる必要があったからね、それは出来ない。代わりに、めいっぱい走ったし大声も出したよ。

 だけど虚空のマイケルは止まらなかった。

 どうやら100メートルくらい離れたところに、ポツポツと並んでいる岩場を見つけたらしい。そこをめがけて走っていたんだ。

 それにしてもどうだろう、時々空を見上げるくらいなのに、虚空のマイケルはことごとく噴石を避けていた。まるで落ちてくる場所が分かっているみたいにね。むしろ茶色いマイケルたちの方が、正しい方向に導かれてるのかと思っちゃうくらいさ。

 ほんと、あとちょっとだったんだ、岩場まで。

 そこでイヤな予感がした。たぶん耳がその音を捉えてたんだろう。

 だから「飛び込んじゃえっっ!!」って茶色いマイケルは叫んだよ。すると声に押されたように虚空のマイケルは岩に向かってジャンプした。かなり飛距離の出る四つ足ネコジャンプさ。

 でも運悪くそのタイミングで噴石がまとまって降ってきたんだ。

「「「虚空ぅううう!!」」」

 3匹が一斉に叫ぶ。飛んでくる破片から目を守る。遅れて土煙がぶわっと立ち込め、その向こう側にさらに降り注ぐ噴石の影を見た。

 そんなっ!

 噴石に打たれて埋もれる虚空のマイケルの姿が、茶色いマイケルの脳裡にはありありと浮かんだ。ネコヘルが歪んで血が出て脳……いや、やめよう。でも、辿りついたその場所で、

「なんと、これが奇跡か!」

 と声を上げた灼熱のマイケルの言う通り、茶色と果実、2匹のマイケルも驚くばかりだった。

 虚空のマイケルは確かに重たいものに押し潰されてはいた。ただしそれは噴石ではなく、

「下敷きになったことが幸いしたらしい。噴石は全て欠片に触れるより前に爆散しておる」

 第2ポイントで探す予定だった神世界鏡の欠片だったんだ。

 子ネコは気絶していた。

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