第3章 メロウ・ハートの廃都市と果実のマイケル

メロウ・ハートの廃都市と果実のマイケル

3-21:断片的な記憶

###  ピッケが歩き始める前のことだったらしい。  そこは迷路街の中では一番高い建物で、屋上は見晴らしがよく、晴れた日には街がいつもの何倍もきれいに見えたって。  カラッとした空気の、すごく気持ちのいい日のことだ。  ひらひらと風に揺られ...
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3-20:願いを問う

***  カラバさんの連れてきた余韻が、4匹の子ネコたちの口を重くする。  ここはピッケの故郷。  メロウ・ハートを出たのは記憶にないくらい小さな頃の話だと思う。だけどピッケはこのことを聞いていたんだろうな。お父さんネコやお母さんネコから、...
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3-19:甘い夢

###  メロウ・ハートの『甘い夢』  それが歴代最高の女優ネコの呼び名でした。この方はサビネコではありません。クリーム色の柔毛に、鼻の先からそっと薄墨を染みこませたようなポインテッドの美しい顔。淡いブルーの瞳による蠱惑的な流し目は、訪れる...
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3-18:メロウ・ハートの成立

###  元々、サビネコの多いさびれた町でした。  遠い昔、大きな街道から外れていたこの町は、中継地としてはとても不便な場所だったのです。流通経路はなく、食料も、情報も、若ネコも、新しいものは何も入ってこない。住民ネコたちは、朽ちていくのを...
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3-17:店主ネコの実力

*** 「えぇ? 実みは足りてるんだよねぇ?」 「ええ、十分に」 「じゃあどうして!?」  立ち上がった茶色いマイケルへの返答は、変わらない笑顔だった。 「店主、やはり貴様何かおかしいな。さっきの話もそうだ。一応の筋は通っていたが話をはぐら...
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3-16:果実の持つ実

***  果実のマイケルは、肩掛けカバンの口を開いて何かの実を取り出した。 「それってシチューに入ってた実?」  茶色いマイケルが身を乗り出すようにして訊くと、「そぉそぉ」と言いながら立ち上がり、カラバさんにその実を渡す。小ぶりなマンゴーく...
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3-15:あわあわの世界の入り口

*** 「正確な情報は私どももつかめておりません。なにぶん流通経路がいくつも断たれており、情報も入りづらくなっておりますので。とはいえ果実のマイケルさんのおっしゃることは事実としてお受入れ下さい。世界は安定性を欠き、不安に駆られたネコたちは...
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3-14:果実の目的

***  大空の国にあるもの。  カラバさんが初めに教えてくれたのは肥料だった。大空の国の肥料といえば、農業をしているネコにとってはよだれが出ちゃうくらい欲しいものなんだって。育てた植物が2倍も3倍も元気になって、種なんかもうんと採れるって...
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3-13:時間の支払い

*** 「となると次は、どうやって『大空のマタタビ』を5枚貯めるか、だな」  うん、とうなづきかけた茶色いマイケルだったけど、カラバさんの雰囲気が変わる。ちっとも動いていないのに、目を離せなかったんだ。 「それには及びません。灼熱のマイケル...
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3-12:大空のマタタビ

***  爪と牙とを剥き出しにしたものの、灼熱のマイケルはぐっと堪える。 「……それが最善だった、と?」  ぐつぐつと煮えたぎる熱湯のように押し殺した声。茶色いマイケルは微笑んだままのカラバさんへと目を移す。でも口を開いたのは果実のマイケル...