最終章 ティベール・インゴットとあわあわの世界。そして4匹のマイケル

あわあわの世界

(138)11-7:雪マイケル

***  ティベール・インゴッドを置く直前、茶色いマイケルが目をつむると、芯のあたりから声が聞こえてきた。  ほんとにいいの?  抗いがたい声だった。  するとまぶたの裏、どこからともなく雪が舞ってきて、たちまちのうちに吹き荒れる。猛烈な雪...
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(137)11-6:こんな世界のためなら

***  階段の下につめかけていた神ネコさまたちが波打った。  それはそうだろう、説得がはじまると思っていたら、子ネコたちが自分たちに向き直り敵対姿勢までとったのだから。神と戦って勝った子ネコたちが。  4匹の周りには毒でも垂らしたみたいに...
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(136)11-5:刻まれた物語

***  祭壇へと続く階段の下は、あわあわの大渦からの開放を待つ神ネコさまたちで溢れていた。  そんなところに、星の芯をぐるっと回り込んできた茶色いマイケルたちが姿を見せたものだから、騒然とするのも無理ははない。たちまちのうちに取り囲まれて...
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(135)11-4:迷い込んだネコたち

***  その来訪者ネコは、窪みの中をのぞき込むなり、音を立てて舌なめずりをした。  茶色いマイケルはひざを抱えたまま後ずさり、雪をかぶった冷たい壁に、背中を預けた。怖くてすぐには立ち上がれなかったんだ。思い出したように足の爪痕が痛みを訴え...
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(134)11-3:窪みの中で

***  暗がりの奥で、茶色いマイケルは小さな白い息を吐いていた。ここは星の芯の裏側にある窪みのひとつ、うっすらと雪の積もった氷の洞窟だ。  白のユキヒョウに連れて来られた時は、ティベール・インゴッドを秤の上に置くことができなかった罰として...
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(133)11-2:『聖秤フェリス』

***  祭壇は、星の芯を背景にして子ネコたちを待ち構えていた。  それは光り輝く巨大な猫の像。輝き方が同じだからか、離れて見ると地核ネコさまが横たわって寝ているように見える。その背中には長くて立派な末広がりの階段がかけられていた。階段の左...
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(132)11-1:戸惑い

***  激しく上下する胸をなだめるように撫でさすり、周りを見渡せばそれはもう賑やかな景色に取り囲まれていた。  銀色のアーチを越えた先、ゴール地点になっている広場には青みがかった光が敷かれ、おびただしい数の神ネコさまたちがつめかけている。...
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(131)10-6:始まりとゴール

□□□  あれからどれくらい経ったのか。  周りには何もない。  この真白な世界の中では、時の感覚は曖昧すぎて頼りにならなかった。キャティの首に噛みついたのが今し方のような気もするし、骸が風化して、塵も残らぬほど経ったとも思える。  どちら...
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(130)10-5:傷だらけのお父さんネコ

*** 『あまぁい。世界は大きな流れの中にあるんだよ。凡ネコ1匹あがいたところで何も変えられやしない。分かろうが分かるまいがおんなじ事、痛みに際限はないのさ。だったら苦しむだけ損だろう』  一瞬、声が下を向く。 『叶わない願いは痛みしか生ま...
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(129)10-4:価値と主

■■■  儀式は神聖である。  神聖であることは美しく、いっぽうで美とは欠けたもののことをいう。  その記憶はいたるところが欠けていた。  ――まぶたが開かれる。  見つめていたのは右の義手。親指、猫さし指、中指の3本が鉤爪のように曲がり、...