(64)7ー6:雲の神さま

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『このような形で顔を出してしまった事をまず詫びる』

 神とネコとが続々と集結する中、茶色いマイケルたちのいる『巨大メカネコの足元』にやって来たのは、ジャガーネコたちをまとめているという雲ネコさまだ。

 風ネコさま情報によればフォルムはウンピョウ。獣の器の中に“白いモクモク”が満ちていて、その名の通り雲のような斑点がある。

 雲ネコさまが真っ先に頭を下げたのは、『雪雲ネコさま』と『吹雪ネコさま』に向けてだった。

『どうか怯えたりしないでほしい。もう二度と、あのような形で君たちに関わることも、関わらせることも無いのだから』

 2匹の反応は薄い。わずかにうなづくだけだ。代わりに応えたのは、

『雲の神。申し訳ありませんが、すぐにというわけにはいかないものですよ』

 冷気ネコさまだった。

『私たち程度の神は、揺蕩う時の中にしか存在することを許されておりません。この身は流れのままに移ろうばかり。その中で凍りついたものはそうやすやすと解けるものではないのです』

 透明なピューマは冷たく言った。それから『ですが』と続けた。

『雪雲も、吹雪も、あなたを邪険にしたいというわけではないようですよ。今しばらく、辛抱強く待っていてあげてください』

 雲ネコさまは噛みしめるように『お言葉感謝する』と言ってうなづいたよ。

 それから向きを変え、

『君たちにも礼を言わせてもらいたい。この混乱の中、仲間を助けて頂き感謝する』

 と茶色いマイケルたちに頭を下げた。

『そして謝罪させてもらいたい。……本来なら序列を鑑みるべきなのだが、このネコたちを優先させて頂いてよろしいだろうか』

 背筋を伸ばし、風ネコさまに尋ねる。

『いーんじゃねーのー? どーだー? 雪ん子ー』

『はい。私たちは構いません、風の神』

『もー! なんで冷気ちゃんがいーってゆーのー!』

『冷気ちゃんがいーってゆったらダメー!』

『なんだー? ダメなんかー?』

『『いーよー!』』

『つーわけで気にすんなー』

 ビジネスネコみたいなお辞儀をしたウンピョウは、茶色いマイケルたちを正面に捉えなおして、

『申し訳なかった』

 とさらに深く頭を下げた。

『私たちは地核の神の奪われたという宝を探していたのだ。君たちが持っていると聞いたので、ならばあちらに奪われる前に手を打たなければと、強引な方法をとってしまった。遠くから見させてもらっていたが、君たちはどうも本当に地核の神から盗んではいないようだな』

「そんなことしないよ!」

 だろうな、と肩を落とす雲ネコさま。

『このような状況になったにもかかわらず、君たちがその宝を使う様子がないので、おかしいとは思ったのだ。いや、リーディアから君たちのことを聞いた時点で考えを改めておけばよかったと思うのだが、偏見、というのだろうか。ネコより神の言うことのほうが正しいと、思い込んでしまっていた』

『なー雲ー。ネコたちが盗んだってよー、誰が言ったんだー?』

『ああ、地核の神から直接だ』

 驚く声が4匹分。さらに神ネコさまたちの中からもいくつか漏れてきた。

「なんでまた地核の神がそんなことを……」

「そんなことぉ言いそうな雰囲気じゃなかったと思うんだけどなぁ……」

 茶色いマイケルは、地核ネコさまの好々爺ネコとした様子を思い出す。

「むぅ。無闇に決めつけるようには思えんかったが」

 だけど風ネコさまには別の見方があるらしい。

『あー、そりゃシジーに担がれてんなー』

『担がれているとは……?』

 雲ネコさまは怪訝にしっぽを揺らした。

『だってよー、そもそもがおかしーだろー。盗まれたってわかってんなら自分で取り返しゃーいいだけの話じゃねーかー。ジジーならどこにいよーがひとっ飛びでネコなんか捕まえられるんだし、宝の気配だってぱっと見りゃわかると思うぞー? 逆に聞くけどよー、なんでそうしねーと思ったんだー?』

 雲ネコさまは何かにぶつかったように頭を上げて固まり、それから、

『恥ずかしながら、大役を与えられたと……』

 怒られた子ネコのように縮こまる。

『オマエらってほんとそーゆーとこあるよなー。力のつえーヤツの言うこと、ありがたがり過ぎじゃねーのー?』

『面目ない……』

『まー、何企んでるかまではわかんねーけど、あのジジーはネコを恨んだりバカにしたりはしねーからよー、そこんトコは心配しなくていーぞー』

 風ネコさまのしっぽの先が、茶色いマイケルのオデコをトンと押した。

『どーせ、よけーなお節介してるだけだろー』

「雷雲ネコさまたちから守ってくれたとか?」

「どうだろうか。確かに牽制という意味では成功しているが、それなら最初から『守れ』と命令するのでは? わざわざ『盗んだ』などと言わなくても済む話だろう」

「その辺りはゴールしてからでも直接聞いてみるしかなかろう。誤解が解けたのならもう狙われることもないだろうしな」

『約束しよう。そして、もしも神に狙われることがあれば、微力ながら力を貸すことも』

「ククク、神の『微力』とはまたとんでもないものを」

 雲ネコさまはさらに、風ネコさまやコドコドたちにも謝り(どうでもよさそうだった)、そうして顔を上げたところで、

「そろそろ話は終わったかしら」

 と後ろから声をかけられた。

「リーディアさん!」

 十数匹の成ネコたちを引き連れて、外套を頭までまとった鬼ネコ面が立っていた。隣にはトラに似た器の神ネコさまがいて、その器の中では水がゆったりと巡っている。

 リーディアさんは驚きの声をあげる子ネコたちに小さく手を振って、

「ちゃんと謝った?」

 と、もう一度雲ネコさまに尋ねたよ。声には冗談の色がのっていて、雲のウンピョウは苦笑いしながら『ああ』と振り返った。

『大河、状況は?』

『うむ。『メガロ・カットス』は大空殿たちが相手しておる。優勢とは言い難いが被害もなかろう。我々の方は今、雨の神が別のネコに権能を預けて『メタル・カットス』を蹴散らしておるよ。ネコ・グロテスクとやらはあの騒がしい者たちが相手をしておるし、徐々に押し返すと、そう思っていたのだが』

 大河ネコさまは鬼ネコ面を見上げて、そこで口を閉じた。

『……なにかあるようだな』

 雲ネコさまの声が引き締まり、緊張が場を支配する。

『今しゃべってたヤツが大河の神なー。フォルムはライガーだぞー。分かるかライガー。ライオンとトラが合体したやつなーオレもあれにしよーかと思ったんだけどよー、ちょっとばかりデカすぎるからなー。雨の神っていうのはあそこにいるクロジャガーでふぐぶぶぶぶ』

 茶色いマイケルは風ネコさまの口に手を押し当てて「どうぞ続けて」とリーディアさんに愛想笑いをした。

「元気そうでよかったわ」

 クスッと笑う。鬼ネコ面は「できればゆっくり話していたいんだけど」と前置きし、

「私の予想が正しければ――」

 神もネコもひっくるめてこの場にいる全てに関係のある話だからと、声を低くした。

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