(32)6-3:神さまの序列

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 いつの頃からか神さまには上下関係が生まれたという。

 基準は力の強さと影響力。

 より広範囲に大きな権能を振るうことができる神、さらには他の神にも影響を及ぼすことのできる神が優位とされているらしい。地核の神を頂点とする『大神』にはじまり、大空ネコさまや大地ネコさまや風ネコさま(!?)らが分類される『特等』、あとは順次『1等』から『3等』までに分類されているのだとか。

「ったくよ、どこにだって順序をつけたがるやつはいるんだな。自由に昼寝してたらそれだけで幸せだっていうのに」

「それでそれで、その細神っていうのは?」

 コハクさんの質問に風ネコさまは、

『細神はー、ちょっとしか力持ってねー神のことなー』

 と答えたよ。それを聞いて茶色いマイケルはつい、「ええっ!?」と声を上げてしまう。

『なんだよー、おどかすなよー。プリン踏んじまったじゃねーかー』

 カラメルの山頂にずっぽりと足を突きさした風ネコさまに声を細くして謝った子ネコは、「だってさぁ……」とその足を拭いながら、

「雷雲ネコさまも、細神なんでしょ……?」

 と尋ねた。それはクラウン・マッターホルンで度々聞いたことだ。

 雷雲ネコさまは風ネコさまに『これだから、細神は』と言われ、さらには山頂で3匹の神ネコさまから、『力もないくせに数ばかりいる細神どもが群れているのを見ると反吐が出る』と言われて、その後にことごとく怒り狂っていた。

 そうか、「弱いくせに」って言われたようなものだったんだ。それは怒っても仕方がない。だけどあんなに恐ろしい力を持っているのに弱い方だなんて他の神さまたちは一体どれほど……と茶色いマイケルが身震いすると、風ネコさまが一瞬ぽかんとしてから、

『ニャーーーーハッハッハっ!!』

 と、マタタビのスコールでも浴びたみたいに、身体をよじって悶えてテーブルの上で笑い転げはじめた。

『お、おまっ、おまえそれぜってーあいつの前でゆーなよー? ぐふふっ、あいつ神の中でも特に力にこだわってるしょーもねーヤツで、しょっちゅー細神のヤツらバカにしてるからなー! それ言ったら変な毛玉みてーなの吐き出されてビリビリになっ……ニャーーーーハッハッハっ!!』

 よほど笑いのツボに入ったらしく、テーブルを囲んでいたネコたちは立ち上がり、それぞれにお皿を抱えて風ネコさまの笑いが治まるのを待っていた。5分くらいはそうしていたかな。それからようやく、ヒューヒューと擦り切れた息を吐きながら風ネコさまが口を開く。

『ピュー……あぶねー、笑い殺されるかとおもったー。いちおー教えとくとよー、”雷雲”は”雲”や”流れ”のヤツなんかと同じ1等神だから。間違ってもネコがケンカ売るんじゃねーぞー?』

 灼熱のマイケルは空を見上げた。

「へぇ、その話は初めて聞いたわ、ありがとう風ネコさま」

 リーディアさんは手元にあったチーズケーキの小皿を風ネコさまの前に出して、

「じゃあ茶色くんたちはその細神たちに注意しないとね。どんなふうに襲ってくるのかは分からないけど……」

 と言いながら、その小皿をゆっくりと手前に引いたよ。糸で引かれたように首を伸ばす風ネコさまは、ふと顔を上げて、

「権能は使わねーんじゃねーかー? おまえらネコみたいに……こうやってこうやって――シュッ、シュシュッ! 殴りかかって来るんじゃねーかなー」

 灼熱のマイケルとハチミツさんの方を向いて、ネコジャブからネコアッパーまでの流れをやって見せた。わりと様になっている。「そう、ありがとう風ネコさま」とリーディアさんが言い、小皿が近づけられると、顔をうずめるようにしてネコ食いしはじめた。

「ということらしいわ。くれぐれも気を付けてね、マイケルくんたち」

 4匹がうなづくとリーディアさんは「よし!」と胸を張ってニッコリし、「さて」と今度はハチミツさんたちに顔を向けた。その横顔は、同じようにニッコリしているように見える……んだけど、「なんだか張り付けたような笑顔だなぁ」と感じたのは、間違っていなかったらしい。

「『あなたたちが追い込んだためにマイケルくんたちが遭遇した鬼ネコ面の殺猫鬼』についての話に移りましょうか」

「「うぐっ」」

 明らかに強調されたその言葉に、サビネコ兄弟は傾けていたグラスを揺らして呻き声をあげた。

「あの、『あなたたちが追い込んだためにマイケルくんたちが遭遇した鬼ネコ面の殺猫鬼』はご想像の通り、『ピサト』に関係しているわ」

「「…………」」

 そしらぬ顔をして、口元とテーブルを拭いはじめた。だけど、

「この辺りはマイケルくんたちにも軽く話しておいた方がいいかもしれないわね、あの『あなたたちが追い込んだためにマイケルくんた』」

「わーかったかかったってすんませんでしたぁ!」

「俺らが悪かったよ謝るからもう勘弁して!」

 すぐに、居たたまれなくなったらしい。サビネコ兄弟の動きは素早かった。バンザイをしたままテーブルに額をぶつけて降参を宣言し、その姿勢のままパンッと両手を打ち合わせ、

「すんまっせんしたー子ネコさんたちー!」

「もう絶対しないからどうかリーディアさんにチクチク刺さないでって口利きしてくれませんかぁ子ネコさまー!」

 と野太い声でお願いしてきたよ。子ネコたちは顔を見合わせて「あっはっは」と笑いだす。なんだか滑稽芝居を演じてるようにしか見えなかったからね。もう話はついていたから『プルーム』に乗せられたことは気にしてなかったんだけど、ホントにどうでもよくなっちゃった。

 子ネコたちの笑い声を聞いて、そうっと顔を上げるサビネコ兄弟。その視線の先でリーディアさんは腕を組んで待っていた。

「たとえあなたたちなりの善意だったとしても、周りを見ればここがどんなところか分かるでしょ? ろくでもないものが紛れ込んでるところなんだから。成ネコだったらその辺りをよく考えて、むしろ『最後まで付き添ってやるぜ!』くらいの猫っ気を見せること! いーい?」

「「ニャー!!」」

「はいおしまい!」

 今度はリーディアさんがパンッと手を叩いた。肉球があるのに音が鳴るなんてスゴイや!

「それじゃあ『ピサト』について簡単に……ハチミツさん、お願いできるかしら?」

「はい! 話をさせていただきます!」

 ピッとネコ敬礼をするハチミツさん。場はすっかりお笑いムードだったけど、その話の中身はひどく重たいものだった。

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