***
茶色いマイケルたちがようやく立ち上がって駆け付けた時、ネコたちに取り囲まれた灼熱のマイケルは、まさかの苦戦を強いられていた。
あの”見えない攻撃”だ。
フードを被ったネコのボーガンから放たれる”見えない矢”。それからトム&チムの操る”見えない爆発”。それらを避けるのに四苦八苦しているみたいなんだ。
”見えない爆発”の方は、前に運転をしていた『長毛白猫』の、その背にあるメカメカしいタンクが関係しているんだろうって果実のマイケルが言っていた。だけど、虚空と果実、2匹のインテリマイケルたちをもってしても仕組みは分からないらしい。茶色いマイケルにはもちろん分からない。
「イィィィネェェェ! 避ける避ける、避けるぜェこの子ネコォ!」
奇天烈な叫び声をあげたのはチムだ。灼熱のマイケルのいた場所が爆散し、ついでにその辺りにいたネコたちも巻き込まれて泡と靄になって散っていった。
「攻撃の始まりを読んでるねぇ。大したもんだ」
どうやら長毛白猫は女性ネコらしい。しゃがれた低い声は貫禄があって、ネコでごった返している中でもよく響いてくる。
「くぅ、なんだその攻撃は! どうやっているのか教えろ!」
業を煮やした子ネコの質問はまっすぐだ。
「向上心は褒めたげる。だけどもアドバンテージは譲れないねぇ! さぁ、とっとと消し炭ネコにしてやりなぁ!」
「オーケイ、キャティ! まとめて散らしちまおう!」
「HEYチム、ネコ肉壁の厚い方を狙うとイィィゼエェェ↑! おいお客猫、合わせてくれぇ!」
すると”フードネコ”が白く輝くボーガンを構えて、動き回る子ネコを追い回す。右へ左へ避けまくる灼熱のマイケルは、
「成ネコのくせに子ネコばかり狙いおって!」
と吐き捨てた。だけどフードネコは、
「成ネコだからこそだろう。自分の価値も測れん子ネコがニャンニャン鳴くな」
当然、とばかりに渇いた声で返す。さらに、
「本来無価値なお前がこうして狙われるということは、少なからず価値を見出してもらえたということだ。喜んで首を差し出せ」
と無茶苦茶なことを言いはじめた。
「ふざけるな!」
「真面目だ。むしろ祝ってやっている」
なんてイヤなお祝いだ。
見えない矢が、灼熱のマイケルの着地を狙って放たれる。「むっ!」とぎりぎりで躱すことはできたけれど、一瞬、動きを止められてしまった! その時だ、
「おりゃあぁ!」
ドゥン! と重い音はキャティと呼ばれていた長毛白猫の背中から。あのメカメカしいタンクに果実のマイケルがネコタックルをしかけたんだ。ドクターコートがひらりと揺れる。
「ど、どういう物かは分からないけどぉ、これが怪しいなら一度取り除いてみればいいんだよねぇ!」
「ははぁ! いい着眼点を持ってるじゃないかぁ太っちょチャン! アタシの助手にならないかぁい!?」
だけどキャティはよろけただけですぐに態勢を整える。
「アタシの芯をナメるんじゃないよぉ!」
「さすがだぜキャティ! キャティ・マッド・グレース!」
「そして俺はタクティカル・トム!」
「おい、ずりーぞ俺にも自己紹介させろ俺こそがシュー」
突然自己紹介を始めたマタゴンズだったけど、チムの名乗りはそこで途切れた。茶色いマイケルたちのスラブが激しく揺らされたんだ。激震に揺らぐ身体。
「「「なんだ!?」」」
慌てるネコたちのほとんどがその場に崩れ落ちる。そして、
『おおー! 派手なことやってんなー! これ狙ってたのかー!』
風ネコさまがぴょんぴょん飛び跳ねる。だけどそれは、
「ええっ!? ぶつかっちゃったのぉ!?」
「しまった計画が!」
茶色いマイケルたちにとっても予想外の出来事だったんだ。さっき3匹の立てた計画はというと、遠くから高速で近づいて来ていたスラブに、ぎりぎりで飛び移ってとっとと逃げようっていう、大してひねりの無いものだったんだからね。
横腹をえぐるように突っ込んできた『中型のスラブ』はネコたちの大半を、風に撒いた砂のように散らした。狙いとは違っていても効果は劇的だった。
ただし、やっかいな相手は健在だ。マタゴンズもフードネコもピンピンしている。むしろトムとチムはさらに興奮したようで、やたらめったらそこらじゅうを爆発させながら高笑いを上げていたよ。そこに、巻き込まれまいと逃げ回るネコたちの悲鳴が混ざり合い、場はいよいよ混沌としてくる。
そんな中、4匹のマイケルたちがたまたま合流できたことはすごく運が良かった。子ネコたちは額を突き合わせてしゃがみこみ、素早く話し合う。
「手近なスラブに飛び乗るぞ! あのイカレネコどもを相手にしていたらこっちがどうにかなってくる!」
「だね! 芯を使えばちょっとくらい離れてたって飛び移れるしぃ」
「なるべく足の速いスラブを選びたいが贅沢は言っていられないな」
「いや、そうでもないぞ。さっき衝突したスラブが半分欠けていた。勢いからするに速度はかなりのものだろう」
「だけど後ろのおっきなスラブの方が速いんじゃない? すぐに追いつかれちゃうよ」
「確かに速いは早いけどぉ、オイラ思うにこのスラブって岩ぁ、操縦できるんじゃないかなぁ」
「「「操縦!?」」」
「大空ネコさまたちの乗ってたスラブもそうだけどぉ、みんな狙ったようにオイラたちのスラブに迫って来たでしょ? あんな偶然そう何度も起こらないと思うんだよねぇ。絶対何か方法があると思う」
「よしそれに賭けよう。欠けて小さくなったスラブであれば、奴らも全員は乗ってこないだろう。操縦の仕方は進みながらか考える、いいな」
「ちょっと待ってぇ、一応聞いておこうよぉ。ねぇ風ネコさまはさぁ」
『動かし方はしらねーなー』
「「「「よし行こう」」」」
4匹のマイケルは身を低く屈めたまま進んだ。そこかしこで起こる爆発と、逃げまどうネコたちとをかいくぐっていく。そうしてスラブの端まで進んだところでようやく、欠けた小スラブを見つけることができた。
だけど思ったよりも近くにあった上に、ふわふわと漂っているだけで動きが止まってしまっていたんだ。
「いかんな。すぐには操縦できんだろうから他のスラブにするしかない」
「奴らも追いかけてくるだろうが仕方がないか。接触の危険はあるがスラブからスラブへと渡るプランに変更しよう」
「まぁそれなら芯を使い慣れたオイラたちに分があるかもねぇ。渡っていく度に”追っ手ネコ”の数は減らしていけると思う。ただ問題はぁ……」
「あのフードネコだろう。マタゴンズも厄介だがあいつにはまた別の厄介さがある。おそらくもうワシの動きをつかみつつあるぞ」
それは灼熱のマイケル以下の動きしか出来ない他の3匹にとって、遭遇すればあの見えない矢に貫かれるということだ。のどを鳴らさずにはいられない。
「それでも逃げるだけならきっと……!」
「よく言った。ではひとまずあそこの大きなスラブに向けて」
そこへ、
「おい、お前らこっちだ」
横から声が差し挟まれる。
「そのスラブから離れてとっととこっちに移って来い。さっき動きをいじってやったからもうすぐグルングルンだ。そばにいると目ぇ回しちまうぜ」
弾かれるように見てみれば、下。
茶色いマイケルたちのスラブよりもさらに小型のスラブが、速度を合わせてぴったりと並走していたんだ。そしてそこに乗っていたのは、
「よう、さっきぶりだな、元気してたか?」
「兄ちゃん、かっこつけてないで手伝ってよ!」
上半身裸のサビネコ兄弟だった……!
コメント